ひきこもりと障害者認定:当事者の立場から

中川勝文『ひきこもり卒業マニュアル』新風舎文庫(ISBN:4797490055

労働は嫌いです。そして今は働かなくてもいい環境にいることをとても幸せに感じています。

なぜ働かなくていいのか。それは障害者年金というものをもらっているからです。つまり高齢者と同じように年金をもらって生活しているのです。どうして障害者年金がもらえるのか。それは障害者として認定してもらえるように医者に書類を書いてもらって、社会保険事務所に提出し、無事に認定されたからです。誰でも認定されるものでもないそうです。それまでの年金はきちんと払っているか、書類が整っているか、年金を与えなければ生活できないほどの障害を持っているのか、など。しかし、実際のところは医者の書類の書きようで、通るように書けば通るそうです。また、働いたことのある年数や、入院の期間や回数が問題になるそうです。ボクの場合、会社では三ヶ月しか働けませんでしたし、アルバイトなら最長十ヶ月というものがありましたが、週二、三回の軽いものでした。入院は三週間のものを二回、一週間のものを一回しています。そういったことを書類に書き込んで社会保険事務所の専門の医者が障害者に認定するか、するなら何級かを判断します。

このような制度をボクは知りませんでした。しかし知人に教えてもらい、それはさっそく使うべきだと思ったわけです。「精神障害者」になってしまうことで何か社会的制約がないかなど、医者に聞きましたが、特にないようです。逆に電車代などが優遇されたり、障害者であることを存分に使いなさいとある人にいわれたくらいです。ボクもはじめ迷いました。とりあえず役所から書類だけはもらってきましたが何ヶ月か置きっぱなしにしてありました。それでやはり自分はアルバイトなども長続きしないことなどもあって、人生という長いスパンでの経済的な問題をどうするか、真剣に考えはじめたわけです。それでどうしても働けないという結論がでたというか、働くことを諦める、働けないことを認めたわけです。それは義務から解放されると同時に自分の無能力さを認めなければならないことでした。家族には「あんたがいいならいいんだけど、本当にいいのか?」とか「障害者になったからって卑屈になる必要はないぞ。また、働きたくなったら働けばいいんだから」などとやさしい声をかけてもらいました。

ですからボクは自分の意志で働かなくてもいい道を選択したのです。(84、85ページ)

本書は「新風舎文庫大賞」創刊記念特別賞の受賞作品。この事実からも、著者にはかなり特殊な能力や環境があるのではないかと想像する。だから、本書に書かれていることが他のひきこもり当事者にとって参考になるのかどうか、その点はよくわからない。しかし、ここに引用した障害年金の話など、著者独自のひきこもり論が展開されていて興味ぶかい一冊であることはまちがいない。

ちなみに、障害年金を受給するデメリットについて、著者はつぎのようにかんがえている。

負の面もあります。まず障害者年金では人ひとりが生きていくだけで精一杯の額です。ですから結婚してお嫁さんを養っていくというのはまず無理です。相手に自活してもらわなければ結婚はできません。また、子どもを持つという夢も叶いません。これも奥さんに養ってもらわなければなりません。お金を稼いでこない父親です。母子家庭に男が転がり込んできたという感じになるのか、主夫になるか。頭の固いボクにはこんなことはできそうにありません。第一に子どもを欲しいとは思いませんから。(87ページ)

以下、著者に関連するサイト。

まったり賢's
http://homepage3.nifty.com/saru21/main.htm
賢のフラワー日記
http://www2.diary.ne.jp/user/76913/さるさる日記のため、はてなアンテナ登録不可)
中川勝文「快適人生!」(ドリームブッククラブ)
http://www.alphapolis.co.jp/dreambookclub/file/kaitekijinsei.htm