エンプロイアビリティを高める政策とその限界

小杉礼子・堀有喜衣「学校からの職業への移行を支援する諸機関へのヒアリング調査結果─日本におけるNEET問題の所在と対応─」(PDFファイル)
http://www.jil.go.jp/institute/discussion/documetns/dps_03_001.pdf

学校から職業への円滑な移行を支援する施策としては、第1に若者自体に働きかけ、就業意欲まで含む広い意味でのエンプロイアビリティを高めて就業機会に結びつける政策、第2に労働力需要側に助成金を出すなどの方法で働きかけて採用を促進する政策が考えられる。(2ページ)

このような就業支援政策の2分類は、若年層の失業者・無業者の増加には

  1. 若者側の問題
  2. 労働力需要側(企業側)の問題

という、ふたつの要因があることを反映しているのだろう。

若年失業者・無業者が増える要因として若者側の問題点を指摘するときのキーワードが、上記の引用文の中にもある「エンプロイアビリティ」という言葉。エンプロイアビリティとは就業能力といった意味の言葉で、「若年層の失業者・無業者が増加してるのは、若者のエンプロイアビリティが欠如しているからだ」という文脈でつかわれることがおおい(転職やキャリア・アップの話題でもつかわれる言葉だけど、それはわたしには関係のないお話)。

現在、若年者就業問題へ取り組んだ就業支援政策がいくつか発表されている。ただし、そのほとんどが若者のエンプロイアビリティを高める政策という印象。

たとえばid:matuwa:20040518で「若年者就職基礎能力修得証明書」を発行する「YES-プログラム」を取りあげた。「YES-プログラム」の「YES」が「Youth Employability Support」の略語であることからわかるように、これは若者のエンプロイアビリティを高めるという考えにもとづいた政策。

はてなダイアリーでも複数の方が取りあげている*1若者自立塾」も、若者のエンプロイアビリティを高める政策のひとつ。

フリーターに「若者自立塾」設置へ 厚労省asahi.com
http://www.asahi.com/business/update/0613/005.html

200万人を超えて増え続けるフリーターへの対策として、厚生労働省は合宿方式の「若者自立塾」を設置する方針を決めた。規則正しい共同生活をさせて、職業意識や生活規律、就職に役立つ専門技術などを身につけてもらおうというもの。

つまり、フリーターに欠如している「職業意識や生活規律、就職に役立つ専門技術」といったエンプロイアビリティを身につけさせようという政策。厚生労働省のサイトには「若者自立塾」についての記述がみつからないのがちょっと気になるけれど……。文部科学省厚生労働省経済産業省内閣府が推進している「若者自立・挑戦プラン」の厚生労働省による取り組みのひとつなのだろうか。

ところで、このようなエンプロイアビリティを高める政策の限界について、最初に引用した「学校からの職業への移行を支援する諸機関へのヒアリング調査結果」に次のような指摘がある。

エンプロイアビリティを高める施策は一方でそうした施策からドロップアウトしてしまう層を生み出したり、あるいは、まったく政策に乗ってこない層を残してしまう可能性がある。(2ページ)

このあと「こうした者を念頭に置いたセーフティネットの役割を果たす対策も重要になろう」(2ページ)という文章がつづく。そのようなセーフティネットの役割を果たしているのは「引きこもり青年層への働きかけをしてきた諸機関」(4ページ)であると考えられるので、ひきこもり青年層への働きかけをしてきた諸機関のなかでも特に「就業との関係を重視する傾向のある機関」(4ページ)として〈青少年自立援助センター〉と〈NPO法人ニュースタート事務局〉がヒアリング対象になっているようだ。

エンプロイアビリティを高める政策によって、本当に若年失業率が低下したり正社員就職できる若者が増えるのか?──つぎつぎと発表される就業支援政策は、このような疑問を検証するための壮大な社会実験のようにも感じられる。若者側への働きかけだけでなく、企業側に働きかける政策のほうは進んでいるのかしら。