7.まとめ

「地域疫学調査による「ひきこもり」の実態調査」(PDFファイル)の調査結果について注意すべきことは、以下の2点です。

  1. この調査の母集団は全国の成人ではありません。だから「全国で約41万世帯以上にひきこもりの子が存在する」という調査結果は、厳密にいうと統計学的根拠が欠けています。この調査結果には研究者の想像による推論が含まれていることを理解しておきましょう。
  2. 区間推定によれば「全国でひきこもりの子がいる世帯数は、およそ20万〜63万世帯(95%信頼区間)」と報告されています。このように世帯数の推定ではかなりの誤差が実際は考慮されていることを理解しておきましょう。

これら注意すべき点「1.」と「2.」について、個人的な意見を述べておきます。

まず「1.」について。これは、たとえ統計学的に無意味な主張であっても、その主張が学問的に無意味であるとはかぎらない、そんな事実をおしえてくれます。つまり、すくなくとも疫学(公衆衛生学?)の分野では、全国レベルの母集団からランダムに取り出された標本でなくとも、その標本から全国レベルのお話を展開することが慣習的に許されているのだろうなあ、ということです(そのような標本の限界を研究者は自覚し、その限界について最低限の説明が必要なのでしょうが)。

そして「2.」について。たとえば、テレビの視聴率は、母集団からランダムに取り出された標本から推測されています。しかし「○○という番組の視聴率は10%でした」という調査結果は新聞・雑誌などに掲載されているけれども、「○○という番組の視聴率の95%信頼区間は7.6%〜12.4%でした」という区間推定の結果を目にすることがない。区間推定の結果を見たり聞いたりすることがないため、わたしたちは調査の誤差について意識することがほとんどありません。だから、ひきこもりに関する疫学調査でも「20万〜63万世帯」という区間推定の結果でなく「41万世帯」という数字のみがひとり歩きするのは仕方がないかなあ、と感じています。

「地域疫学調査による「ひきこもり」の実態調査」が、ひきこもりに関する貴重な調査であることは、まちがいありません。では、どんな点に注意して報告書を読めば、その貴重な調査結果についての理解をふかめることができるだろうか……こんな個人的な試行錯誤の結果をメモとして公開してみました。