社会疫学

〔対談〕「社会疫学(Social Epidemiology)」とは何か?(週刊医学界新聞、第2566号・2004年1月5日)
http://www.igaku-shoin.co.jp/nwsppr/n2004dir/n2566dir/n2566_05.htm#00

近藤 Kawachi先生は,相対的所得仮説だけでなく,社会疫学という新しい分野を開拓しました。社会疫学とはどんな分野なのでしょうか。
Kawachi ひと言で言えば,健康の社会的決定因子を研究する分野です。
 健康に影響する因子には,「遺伝子」,「ライフスタイル」,「医学技術」などがありますが,これら以外に「社会的な因子」もあります。相対的所得仮説で扱う所得の不平等や絶対的貧困以外にも,「労働環境からくるストレス・過労死」,「人種差別・男女差別」など多数あります。心身医学が人間の心も扱い,伝統的な疫学が心の外側の健康行動に着目しました。
 分子生物学などのバイオサイエンスは,心を持った人間個人のレベルよりも,目に見えないよりミクロな世界に踏み込むフロンティアです。これに対し社会疫学は,1人の人間よりもマクロな世界に着目し,健康に影響する社会的な因子を明らかにしようとするフロンティアです。

どうして単なる「疫学」ではなくて「社会疫学」と言わなければならないのか、そこがよくわかってなかったりする。伝統的な「疫学」は生物(生命)統計であり、それに社会的なものを取りこむことで「社会疫学」になるということなのかしら──リンク先を読んでそんなことを感じた。

引用文にある「相対的所得仮説」とは、経済格差の拡大が健康状態を悪化させるという仮説のこと。ここでつぎのような疑問をもつ。そのような社会的な因子に着目した仮説を提示するときに、なぜ社会医学や経済学や社会学といった既存の学問分野ではなく「社会疫学」という看板が必要なのだろうかと。

近藤 社会と病気の関係に着目した社会医学は以前からありますが,何が違うのでしょうか。
 実証的分析をより重視していること,単に関連を明らかにするだけでなく,社会と健康の関連メカニズムを解明しようとしていること,そのメカニズムとしてストレスなど個人の心理的要因も関心領域の中に取り込んでいること,これらにもとづき社会のあり方も考察していることなどの点があると思いますが,他にはどうでしょうか。
Kawachi 社会医学社会疫学の源流です。人によっては社会医学の復活と呼ぶ人もいます。指摘されなかった違いとしては,学際性があります。社会疫学的研究に取り組んでいる研究者には,社会学統計学,心理学,政策科学,医療経済学など近接する他分野出身の人が多数います。
 また,経済学者も参加しています。どちらかといえば,相対所得仮説を批判する立場から関心を持つ人が多いのですが。

学際性が社会疫学の特徴だったのか……。カワチ教授が「1人の人間よりもマクロな世界に着目」と言っているということは、社会疫学の推進者はなんらかの意味で(要素還元主義とはちがう)全体論の立場にたっていることになるのかな。

相対的所得仮説についてくわしいことを知りたいときは、『The Health of Nations: Why Inequality is Harmful to Your Health』の日本語訳が昨年出版されたので、とりあえずそれを読むのが手っ取りばやい。

不平等が健康を損なう

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