『人の心はどこまでわかるか』

河合隼雄『人の心はどこまでわかるか』講談社+α新書ISBN:4062720035

文化庁長官こと河合隼雄。河合氏の本を読むのは初体験。本書は心理療法家から寄せられた質問に河合センセイがこたえた口述筆記をまとめたもの。「心理療法は甘っちょろいもんじゃない、わかっとんのか!」とニコニコ笑顔で言ってる、そんな不思議な読後感。

カバー裏表紙の「空虚感、無気力感への対処法」という文字が目にとまり、これにひかれて本書を手にとる。河合センセイは、空虚感についてつぎのように言ってます。

空虚になった人は、「金儲け? なんやそれ」、「単位とって卒業したからって、それがなんだと言うんだ」……まわりがなにを言っても、「アホか」のひとことですましてしまいます。しかも、死ぬ気力もないから、それでなにもしないで生きているわけです。

こんなクライエントに対して心理療法家としてどう対処するか。「向こうが空虚で来るなら、こっちも無為で対するしかない」というのが河合センセイの回答。「こちらが本気で無為で対していると、彼らは自分からなにかしらしだす」。こういうことらしい。

本当に空虚な人はある種の純粋さをもっている。だから世俗的な金銭や利益に踊らされることはない。しかしなにかをやりはじめると、その純粋さが消えていく。こんなふうに河合センセイはかんがえています。

人間が生きていくためには、なにかしら悪いこともしなければならないから、これは生きようとする気力のあらわれとも言えます。しかし、悪をそのまま実行してはいけない。そうしながら世俗的な処世術も見につけつつ、だんだん成長していくわけです。

河合センセイによると、たしかに人生は空虚なものだけれど「こんなおもしろくないと思っていた世の中が、どんなにおもしろいかということが、だんだんわかってくる」。そういうことらしい。

……はじめからおわりまで、すべてこんな調子です。

ところで、クライエントが治るとはどういうことかに関連して河合氏はつぎのように語っています。

クライエントが「私はだめな人間だと思います」と反省していたら、それ自体、苦しいことですが、さらに、「もう死んだほうがましです」と言うくらいのところまでいかないとなかなか変わりません。

人間は変わることができるのか。わたしにとってこれは医療少年院を仮退院した元少年の話ではなく、わたし自身の問題です。