『活断層』

佐伯敏光『活断層編集工房ノア、ISBNなし、本体1800+税90円。

Amazon にデータがないので、本書の内容を帯の紹介文から引用。

登校拒否青年が、被災地神戸での
さまざまな出会いと体験を通し
再生への道を歩み出そうとする
孤独と創造が重低音に奏する長編文学。

きのうの本のように「いま私たちの社会の側が変わっていくことが求められている」といった内容のエッセイを読みはじめると、いつのまにか「著者に踊らされないように気をつけないと」という警戒警報がこころのなかで鳴ってしまう。しかしおなじ主張であっても、これが小説だと警報がならず、その世界にはいってしまえる。

ひきこもりのなかには、非日常につよいひとがいる。笠原嘉は「スチューデント・アパシー」の特徴として副業可能性をあげていた。副業=非日常とはいえないかもしれないけれど。ひきこもりの症状としては軽症に分類されたり「偽ヒキ」と呼ばれるかもしれないけれど。

主人公は高校という日常の世界になじめず不登校になった。しかし非日常の世界に居場所をみつける。新聞配達をしながら大検や入試のための勉強をつづけるのも非日常。そして最大級の非日常である震災がおきることで、被災地でさまざまな体験をしながら主人公はかわっていく。そして主人公の青年だけでなく、その青年の家族のコミュニケーションにも変化がおきる。

不登校で閉じこもっていた青年が非日常の場で活躍するというストーリーにはリアリティーを感じる(兵庫県で教員をしている作者の体験がモチーフになっているかもしれない)。阪神・淡路大震災のとき神戸大学附属病院の医師だった故・安克昌によれば、災害がもたらす覚醒と興奮によって精神障害の症状が悪化したり軽くなったりすることがあるという(『心の傷を癒すということ』角川文庫、ISBN:4043634013)。この非日常がもたらす覚醒と興奮は、ひきこもり・不登校という閉じこもった状況から抜け出すキッカケになるかもしれない。